なぜかパリの空の下

国際関係の修士を取ろうと思い立ち、気が付いたらパリにいました。

植民地支配は「人道に対する罪」か

スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』を観に行ってきました。

物足りなかった、というのが感想で、遠藤周作の原作に忠実であろうとするあまり、原作の深みが描き切れていないように感じました。

もしくはアメリカ人のスコセッシには理解しきれない部分があったのか、そもそも映像という表現手段の限界か。。監督の並々ならぬ意欲は伝わってきただけに、少し残念でした。

 

映画はフランス人の友達と観に行ったのですが、彼女の感想が

 

「そもそもキリスト教を布教しにいって、

ほかの国の人に押し付けるのが間違っている」

 

というもので、とても興味深いな、と。

世俗化しているとはいえ、かつてバチカンの長女と呼ばれたフランス。

 

話を聞くと、植民地支配(とキリスト教の布教)については学校で徹底的に批判的に学んだ、ということでした。この過去の植民地に関しては、学術的にも、批判的な論調はある種の前提条件になっている、とさえ感じることもあるのですが、

 

ただ、社会全般としては、そうでもない、

 (エリート層と社会一般の感覚は大分違う)

 

ということが浮き彫りになった出来事が、フランスで大きな話題となっています。

 

ことの発端は、大統領候補のエマニュエル・マクロン(右派のフィヨンのスキャンダルで、もはや本命候補)が、訪問先のアルジェリアで、植民地支配を「人道に対する罪」、と表現したことです。

 

これに、保守派と極右が猛反発。最終的には、マクロンが(アルジェリア独立に際して、フランスに帰国した人々に向けて)謝罪をする、という騒動になりました。

植民地支配が国際法上の「人道に対する罪」に当たるかどうか、は専門的な話になるのですが(※)、騒動がここまで大きくなったのは、

 

長年にわたる 

「植民地支配に対する反省」と「植民地支配におけるフランスの功績」

のどちらにどれほどの重きをおくか、という問題が背景にあります。

 

France24でも、植民地支配を反省し「歴史」の一部にすることができたドイツと違い、フランスは、なぜいまだにこの問題で揺れ続けるのか、という報道がなされていました。(ドイツの例が引き合いに出されることや、感情的になってしまう、というあたり、日本の歴史問題、が思い出されます)

 

《Why colonization remains a political football in France》

http://www.france24.com/en/20170217-french-colonisation-still-political-football-emmanuel-macron-france-elections

 

過去には2005年、右派のシラク政権時(保革連立政権解消後の2期目在任中)、学校で「植民地支配の肯定的役割」について必ず教えるべし、という条項が含まれた法律が可決された(反対運動を受け、その部分のみ廃止)こともあったようです。

 

ただ、部分的に謝罪することになったとはいえ、大統領候補の本命からこのような問題が提起されたことは非常に健全なことだと感じました。

 

 

とはいえ、何をもって反省し、乗り越えたと言えるのか、はとても難しい問題だなあ、と感じる今日この頃。

例えば、非西欧諸国から批判のある、「人権」や「民主主義」が新たな「キリスト教」として、西欧の「干渉」という名の「支配」の口実となっている、という指摘は、本質をついているとは思います。そういう意味では本当に反省しているのか、と。

(ただ、じゃあ「人権」や「民主主義」を否定するというわけではなく、それはまた別の話です)

  

*上記の指摘をしている本

ヨーロッパ的普遍主義

ヨーロッパ的普遍主義

 

 

「国際関係における人権」という授業を取っているのですが、

「EUの人権外交」はどうあるべきか、「対外的に民主主義と人権をどう促進していくか」、なんて話を聞いていると、

 

400年前、ポルトガルの神学校に学んだ、『沈黙』のロドリゴのような宣教師たちは、こんな感じだったのかなあ、なんてことを思わずにはいられないのです。

 

目の前のクラスメートたちの姿に、石造りの教会で神父の話を聞いていたであろう宣教師たちの姿が重なってみえるようです。

 

※国際刑事法の教授曰く、植民地支配が「人道に対する罪」とされたことは過去一度だけあるとのこと。ベルギーのレオポルド2世によるコンゴ支配に関して、アイルランドの人権活動家・(イギリスの)外交官であったロジャー・ケースメントが「人道に対する罪」として批判をしたとのこと(ただ根拠となる文献はみつけられず)です。