なぜかパリの空の下

国際関係の修士を取ろうと思い立ち、気が付いたらパリにいました。

セルビア首相の講演会

日本は金木犀が香る頃でしょうか。

パリはぐんと寒さが増し、朝夕の冷え込みは冬すら感じさせます。道行く人々もコートを着込みはじめ、もっと寒くなったらこの人たちは何を着るのかしら、と不思議に思っているところです。

 

そういえば、今は、パリコレ期間中なんですね、キムカーダシアンが強盗にあったニュースを読んで初めて知りました。パリコレの欠片も感じないくらい、課題に埋もれて家と学校を往復する毎日を送っています。

 

この1カ月、日々の授業に関しても、自分自身に関しても多くの気づきがあったのですが、その中でも衝撃度の高かった出来事について、今日は少し。

 

先日はセルビアの首相の講演会を聞きに行ってきました。

 

(さすがグランゼコールというべきか、世界を動かす当事者たちのセミナーやイベントが盛り沢山で、時には同じ日時に興味があるイベントが被ることも。もう少し頑張って調整してよ、というツッコミは封印して、とても贅沢だなと思います。課題文献をほったらかして聞きに行きたいところですが、そうはいかないため、取捨選択をして、参加をしています)

 

セルビアの首相はアレクサンダル・ブチッチといい(ちなみに国家元首はニコリッチ大統領)、46歳で非常に若い首相です。そして背がとても高い(セルビア人クラスメート曰く、背が高かったり、体格がよかったりすることは、セルビアではとても重要な要素だそう)。

 

日本ではセルビアの首相が誰かなんて、おそらくほとんどの人は知らないでしょうし、彼に関してのWikipediaの日本語版はありません。私も、セルビア人のクラスメートからNATOのセルビア空爆についての経験談を聞いていなければ、おそらく参加をしていなかったでしょう。

ただ、私たちが知らないからといって、何かに劣るわけでは全くなく、政治家として、日本の政治家とは比べものにならない次元に身を置いているということを感じた講演会でした。

というのも、セルビアが今直面している課題は、コソボ独立問題、クロアチア、ボスニアヘルツェゴビナとの関係、EU加盟、安全保障(NATO/ロシアとの関係)と、国の大きさを考えると、状況によっては国の将来を劇的に変えてしまうような問題を同時並行で抱えており、且つ、コソボ紛争時のNATOによる空爆は1999年、まだつい最近のことです。質疑応答では、コソボ、ボスニアヘルツェゴビナ、セルビアとバルカン半島の学生が並び、際どい質問を投げかけていました。

ある学生への返答の中でI do not want to hurt your family and I do not want you to hurt my kids(という趣旨のことを)答えていたのですが、この「hurt」は本当の意味での、身体的な意味での「hurt」だということが、平和に慣れ切った私には衝撃的でした。

質問をする方の学生たちにも、真剣という言葉ですらも生ぬるいような、緊迫感が漂っており、もちろん色々な安全保障上の課題や問題があるとはいえども「戦後」に生きる私たち日本人と違って、彼らにとって紛争を含めたこれらのことは全て「現在」の出来事だということ、当たり前ですが、強く感じた講演会でした。

もちろんセルビア国内では首相への賛否両論あるようですが、それでも、それを踏まえたとしても、デリケートな問題を抱える一国の首相が、学生に対して講演会を行い、質疑応答を設けるということは、それが例えイメージ戦略の一環であったとしても、日本的な感覚からすると驚くべきことでした。日本の政治家が同じ状況に置かれたら、果たして同じことができるのか、と思います。